月刊日本語(現 日本語教育ジャーナル)にて2007年4月号~2010年6月号まで連載

ことばのココロ 第5回

二度づけ禁止!



 先日、大阪へ〝シナハン〟に行って来た。シナハンというのは、シナリオハンティングの略。脚本を書く前に、ドラマの舞台になりそうな場所へ行き、取材などをすることである。
 私は今、秋から始まる連続ドラマの執筆中。今回、メインの舞台は東京だが、主人公は大阪出身の設定である。実は私、この年まで大阪に縁がなく、ちゃんと行ったこともなかった。大阪の人を書くのにそれじゃ困るだろうというわけで、行ってきました、大阪へ。
 まずは、一番コテコテ度の高い、これぞ大阪!という所と聞き、行ってみたのが、通天閣の下に広がる街「新世界」。昭和と見まがうアーケード街には、ギッシリと店が並び、碁・将棋クラブでは、昼間から大勢のオッサンたちが、将棋を指している。洋品店には、上下で一、五〇〇円のジャージや、ド派手な模様のTシャツ! 立ち飲み屋では、当たり前のように昼間から酒をあおる人々。そして、なんといっても、街全体のド派手な色使い。赤、青、ピンク、そしてゴールド! 期待を裏切らない凄さが、そこにはあった。

 さて、名物串カツを食べようと、人気のありそうな店へ。カウンターに座る。そこでも昼からビールを飲むオッサンたち!、オバチャン軍団、リクルートスーツの学生男女のグループに、ヤンキー風のカップル。まるで脈絡がない取り合わせである。大阪の串カツも初体験。メニューを見る。安い! 牛肉の串カツが一本八〇円! 豚カツ一二〇円。なのになぜかアスパラ二〇〇円。海老は四〇〇円! そして、目の前には、大きめのアルミ容器になみなみと溢れんばかりのソース。その横には「二度づけ禁止」の文字。
 このソースに串カツを浸して食べるのだなということはわかったが、「二度づけ」ってなんだろうと思っているうちに、揚げたてのジューシーな串カツが、目の前に差し出された。それを受け取り、皿に置いたら、店のオッチャンにいきなり怒られた。「皿に置かんといて。その前にソースつけて! それから置く!」。ええ? なんで~と思ったが、どうやら、一度、皿に置いた串カツにソースをつけるのを許すと、食べかけの串カツに、もう一度ソースをつけるのを阻止できないからだと気づいた。
 皆で共有するソースに、食べかけの串カツを入れたらどうなるか。うーん。考えただけで、ちょっと気持ち悪い(それで二度づけ禁止なのか!)。しかし、それでもソースを小分けにせず、あくまで皆でつけて食べようという思考。なんという合理主義!
 雑多で、気取りがなく、自己主張が強く、それでいて人間味溢れ温かみを感じる街。ここが大阪のすべてではないだろうが、この感覚を知っている人間と、そうでない人とでは、キャラクターも変わってくるはず。そんなことを思いながら、初串カツを味わったのであった。しかし、衣がサクサクで熱々で、ごっつぅうまかったで~、あの串カツ! 

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