ドラマな日々 第1回
仙台銘菓!?
仙台のみなさん、こんにちは。吉田紀子と申します。名前を聞いても、一体誰? と思われる方が、ほとんどだと思いますが、東京の片隅で、夜な夜なテレビドラマの脚本を書いている者でございます。ご縁があって、この原稿をお引き受けすることになりました。
脚本家の名前は知らなくても、私の書いたドラマは、ご覧になったことがあるかもしれません。「Dr.コトー診療所」とか「恋を何年休んでますか」とか。もしも見てくださっていたら、ありがとうございます。まだ見たことのない方は、ぜひレンタルビデオ店で……って宣伝してる場合ではありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
実は私、子供の頃、福島市に住んでいたことがありまして。当時仙台といえば、福島から見たら大都会! 憧れの街でした。確か小学校の修学旅行は松島。合奏コンクールで東北大会に出た時は、映画「スウィングガールズ」の少女たちよろしく、喜び勇んで皆でバスに乗り仙台に出かけた覚えがあります。その後、東京に移り住んだのですが、高校時代に父が仙台に単身赴任になり、その頃は休みごとに遊びに行っていました。そんな私の中で、仙台の美味しい和菓子といえば、"○○がモナカ"。
一昨年、TBSの日曜劇場で「末っ子長男姉三人」というホームドラマを書いた時のこと。主人公の深津絵里さんが、仕事で仙台に出張する回の台本打ち合わせの時、持ち帰るお土産の話になり、すかさず私は、「仙台といえば、"○○がモナカ"ですよ! アレ美味しいんですよね~。とくにゴマ味が。お土産持って帰ってくるなら、ぜひあのモナカにしてね」などと、話したのです。別に物語の大筋には何の関係もなかったのですが……。とにかく、そんな話になった。オンエア後、私がカンヅメになり執筆していたホテルの部屋に、深夜スタッフの女性から電話があり、「吉田さん大変です! ドラマを見たモナカ会社の人が、お礼にといって大量にモナカを送ってきてくれました! 吉田さんの言ったとおり、メチャクチャ美味しいですよ。みんなで喜んでいただいてま~す! それにしても、なんと太っ腹な会社なんでしょう。紙袋がチラッと映っただけなのに~~~」と、大層喜んでいました。私は、そりゃーよかったなあと、思いながら、こんな電話をわざわざしてきてくれたのだから、きっと私にもモナカを、持って来てくれるに違いないと、内心ちょっと期待しながら、ひとりコツコツ執筆を続けておりました。でも、その後、何度打ち合せで顔をあわせても、何事もなかったかのように、モナカの話題は出ず、現物も届かず……とうとう私は一個も食べることなく執筆を終えてしまいました。私は、彼女と会うたび、心の中でそっとつぶやいた。「ああ。あのモナカ久々に食べたかったなあ。電話かけてくるくらいなら、一個くらい残しておいてよ」と。でも、あんまりセコイので口に出しては言えませんでしたとさ。スミマセン。ただそれだけの話なんですが、ここまで書けば、仙台在住の方は、どこのモナカか、どんな味か、きっとご存知ですよね。
そんな苦悩の(?)日々を送っている私ですが……。今回2年ぶりに、「末っ子長男~」と同じ枠のTBS日曜劇場で、10月から始まる連ドラを書くことになり、今まさに執筆の真っ最中です。タイトルは、「恋の時間(仮)」。黒木瞳さん扮する主人公の独身バリキャリの姉と、子持ちパート主婦の妹。性格も生き方も正反対の二人に、ある事件をきっかけにそれぞれ"恋の時間"が、おとづれてしまう……と言うお話です。独身女性に恋の時間がおとづれても、問題はないのですが、主婦の妹の方は大問題です。姉は、妹がその恋にのめりこむことで、自分が今まで持ち得なかった大切なもの(すなわちそれは、家族であり子供たちなのですが)を失ってしまうことに、妹以上に危機感を抱きます。毎回姉と妹が対立する喧嘩シーンは、苦労しつつ描いております。 どんな作品に仕上がるか、まだまだ未知数ですが、秋らしくしっとりとした恋の話になればと思っています。ん?お姉さんの恋は多少ラブコメチックかもしれませんが……。そんなわけで、新番組チラッとでも見ていただけたら幸せです。
*2005年 9月号 掲載*
☆2013年のあとがき☆
このエッセイを書いたのは、2005年の9月のこと。
“○○がモナカ”は、東北では有名な仙台銘菓“白松がモナカ”です。
大納言、白あん、胡麻味の三種類があり、いずれも美味。
そうそう。このエッセイが掲載された直後、“いずみっぷる”の編集長に、
白松がモナカ本舗から「吉田さんに、ぜひモナカをお送りしたい」と電話があったそうです。
本当になんというか、親切というか心優しいモナカ屋さんじゃありませんか。
その時すでに私は、編集長から「そんなに好きなら」と、
“白松がモナカ”を送ってもらっていたところだったので、
お心遣いだけありがたくちょうだいします。と、伝えた覚えがあります。
そんなことを、拙文を読み返し思い出しました。
そして、その五年半後に、まさかあんな恐ろしい地震や津波が東北地方を襲うなんて……。
エッセイを書いていた頃には、思ってもみませんでした。
一昨年の震災後、子供の頃過ごした福島市のことが気になって、
今はもう知り合いもほとんどいない福島を、四十年ぶりに訪れました。
その時、駅前の中合デパートに“白松がモナカ”を見つけ、なんだかうれしくなって、
買って帰りました。
震災を経てなお、同じようにモナカを作り続けている“白松がモナカ”に、
無事だった旧知の友人に再会したような気分になったのです。
私が、東北で好きなお菓子ナンバー3は、「白松がモナカ「かもめの玉子」「ままどおる」。
“かもめの玉子”の本社は岩手の大船渡にあり、被災されたと聞き、
心配していたのですが、顧客からの「“かもめの玉子”がないのは淋しい、
また食べたい」という声に応え、工場を再開したという記事を何かで読みました。
黄味あんをホワイトチョコで包んだその形が、鴎の卵の形をしていてホントに美味しい。
このお菓子は、杉並の私の自宅近くの駅のショッピングモールで手に入れることが
出来るのですが、今年のお正月には、「紅白かもめの玉子」というニューバージョンも
出ていて、その前向きさに感激しました。
もちろん、その場でゲット。
お正月に皆でいただきました。
“ままどおる”は子供の頃、大好きだったお菓子。
ミルク味のあんを、バターをつかった生地でつつんで焼いたほんのり甘い上品な味。
私が子供時代を過ごした昭和四十年代の福島には、そんな洒落たお菓子は皆無で、
初めて食べたときには、“福島にも、こんな美味しいお菓子があるんだ“
と感動した思い出が。
四十年ぶりに行った福島で、ふとその“ままどおる”を思いだし、
地元の女の子に「“ままどおる”ってまだある?」と聞いたら、
「あります。あります。駅ビルでもどこでも買えますよ~」
「今は、“チョコままどおる”もあるんですよ」と、(ちょっと東北訛りで)教えてくれました。
これも懐かしくて、買って帰りました。
そして先日、とある企画の打ち合わせで、福島出身の作家と音楽家と広告代理店の人と
会っていたときのこと。
福島出身の彼らに、私が“ままどおる”が、まだあることに感激したと、話したら、
その場でいい年のおっさん三人が、声を揃えて「まま、まま、ままど~る♪」と、
テレビCMソングを歌い出しのです。
これには私も、椅子から転げ落ちそうに!(私はすっかり忘れていました……この歌)
そして、ひとしきり“ままどおる”の話題で盛り上がったのでした。
たかがお菓子されどお菓子。
何十年という時の流れの中で、変わることなく一つの味を極め、
皆に愛され続けることは、並大抵のことではないと思います。
すごいなあ。
ありがとう。白松がモナカ
ありがとう。かもめの玉子
ありがとう。「まま、まま、ままど~る♪」
2013年2月