月刊日本語(現 日本語教育ジャーナル)にて2007年4月号~2010年6月号まで連載

ことばのココロ 第23回

画期的変化!①

「おつう部屋」返上


 昨年、私に画期的変化が起きた。二〇年にわたる夜型生活からついに抜け出すことができたのである!執筆は、つい深夜になってしまっていた。昼過ぎに起き、遅い朝食(兼昼食)を食べ、雑事をすませて仕事に取りかかるのが夕方。夫の帰宅に合わせ夜九時ぐらいまで仕事し、夕食。
その後、深夜〇時ごろから仕事部屋にこもり、早い時で午前三時、連続ドラマなどで切羽詰ったときは、明け方まで作業は及び、朝日を見て就寝。そして、昼過ぎに起き出す。そんな暮らしを続けてきた。

 我が家では、私の仕事部屋は「おつう部屋」と呼ばれていた。夜な夜な『夕鶴』のおつうのように部屋にこもり、身を削るようにして執筆しているからだ。おつうの真似をして「決して覗いてはなりませぬ」と夫に言ったら、「怖くて覗けません」と言われたこともある。これではいけないと何度思ったことか。〝一人時差ぼけ〟の生活はしんどい。眠ったと思うと、宅急便配達のインターフォンが鳴ったり、電話がかかってきたりする。そのたび目を覚ましたり、目は覚めるけど無視したり……。だらだらと惰眠をむさぼることになる。夏場はまだいいが、冬場は起きたとたんに日が暮れてしまう。これほど虚しいことはない。人として失格である。

 師匠の倉本聰先生からも、何度となく朝型にするよう注意されていた。「夜中にものを書くと、テンションが上がりすぎて、深夜に書いたラブレターみたいになっちゃうだろ」と。「昼に書くと、作品が確実に変わる」とも言われた。その意味は確かにわかる。前の晩に書いたものを翌日読み直し、赤面することも多々あった。こわーい師匠にそこまで言われても直らなかったライフスタイルが、一変した。

 犬を飼ったからである。仕事の縁で知り合った香川県の嘱託警察犬訓練所の所長から、昨年夏、ラブラドールの仔犬をいただいたのである。うちはマンションなので大型犬は無理、と腰が引けていたのだが、「生まれたから見に来てよ」と言われ、行ってしまったのが運のつき。コロコロとした白いテディベアみたいなその姿に、ひと目で心を奪われてしまった。
 運よく、去年の夏場は軽井沢で過ごす予定だった。軽井沢にいる間に、仔犬をマンションに対応できる犬に教育し、帰ると決意した。後ろには訓練所の所長がついている。相手はプロだ、何かあったらSOSを出せばいい。仔犬を受け取る前に、所長にラブラドールの飼い方を指導してもらった。諸々アドバイスはあったが、一番の心得は「ええか。犬は最初が肝心や。絶対に要求をのんだらあかんで。のむと、どんどんわがままになるけんな」であった。「わかりました! 厳しく育てます!」。そう誓った私だった。しかし、その時はまだ、私の中に〝早起き〟の文字はなかった。

 軽井沢では、仕事場一階のガレージに犬用ケージを置き、その中に犬を入れた。深夜〇時に寝かせても、仔犬は六時間もすれば目が覚めてしまう。朝になると、ゴソゴソ、キャンキャン、時にワンワン!と訴える。 「飯くれ!」「おしっこもらしちゃった!」などなど。そんな中、私に変化が起こった。私の中の母性が、突如目覚めたのだった!(次号に続く)



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