月刊日本語(現 日本語教育ジャーナル)にて2007年4月号~2010年6月号まで連載

ことばのココロ 第10回

デレデレの輪



 さて、先月に引き続き、デレデレなお話。『ハタチの恋人』で長澤まさみちゃん演じる主人公ユリは、貧乏学生。食費を浮かせるため、コンビニのオジさんを、その〝魔性の微笑み〟 (!?)で悩殺し、消費期限切れのお弁当をもらっている設定である。そのコンビニ店員役を好演している恵俊彰さんのデレデレ顔、実は、演技ではなく〝“素〟……のようなのだ。

 このドラマの立ち上げのころ、プロデューサー(以下、P)の八木さんが、恵さんに、TBSのトイレで突然、「ボク、長澤まさみちゃんのファンなんです。ワンシーンでいいですから、出させてください」と、直談判されてしまった。最初は冗談かと思っていた八木P。しかし、その後もトイレで遭遇するたびに頼まれ、そこまで本気ならと、この役が誕生した。
 たまたま、恵さんとまさみちゃんの初共演の日、私は、コンビニのロケを覗きに行き、まさみちゃんを見送る恵さんのこの上なくデレデレしたお顔を拝見させていただいた。
 撮影終了後、満面笑顔の恵さんに「吉田さん、ところで今後、二人に何か進展は?」と聞かれ、ちょうどユリにコンビニのオジさんから、消費期限切れ弁当を知らせるメールが来る場面を書いていたので、「あ。メール交換するところまでいきますよ」と言ったら「そうですかあ」と、猛烈に感激されてしまった。
 実はその回、メールだけの登場で本人の出演はなかったのだが、そんなこと言えるはずもなく、そそくさと現場を離れた私であった。役柄だけでなく、まさにオジさんキラーのまさみちゃん。『Dr.コトー診療所』の漫画家山田貴敏氏は、「お願い! まさみちゃんのサインもらってきて」とうるさくて仕方ないし、この春、仕事した某P氏の机には、まさみちゃんのカレンダーがしっかりと置かれていた。
 ドラマ『優しい時間』で共演されていた寺尾聰さんは、まさみちゃんの笑顔を「極上の微笑み」と絶賛。『ハタチの恋人』の演出、竹園ディレクターは、まさみちゃんが涙ぐむシーンを撮り終えた後、ポツリと「キレイな涙や」と、ため息をついたとか。

 その話を教えてくれた、この番組のもう一人のP、清水さんに、「清水さんは珍しく、まさみちゃんにデレデレしてないですね」と私が言うと、清水さん、大真面目な顔で、言った。「ボクは、立場上、デレデレしそうになるのを、必死に我慢しているんです」。
 そんな清水さんも、最近編み物を始めたまさみちゃんから手編みの帽子を頭にかぶせられ、「スナフキンみたい」と言われて、ついに我慢できずにデレデレしてしまったとか。清水さん曰く、あの天性の無防備さと純粋さに、オジさん心は揺れてしまうのだそうだ。

 さて、ドラマも終盤、さんまさんのまさみちゃんとの関係は、次第に切なくなってきて、さんまさん演じる圭祐は、もはや、デレデレ顔ではなく、女性が見て、グッとくるような表情になっているかもしれません。

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