ドラマな日々 第14回
『脚本家の休日』
現在オンエア中の「Dr.コトー診療所 2006」も、この冊子が出る頃には、そろそろ最終話を迎える頃でしょうか。ドラマの企画を立ち上げたのが去年の秋。その間に映画の執筆があり、その後脚本に取りかかり、ようやく10月半ばに全てを書き終えました。お正月に休んで以来、約10ヵ月ぶりに、何もしなくていい日々が私にもおとづれたのです! こういう時、度胸と行動力のある人は、ドーンと休みを取って、海外へ行ったりし、優雅な時間を過ごすのでしょうが、それができない貧乏性の私。毎週木曜日の「コトー」のオンエアも気になるし、汚れている家の中も気になる。もちろん、まだ島で撮影しているコトー先生たちのことだって、忘れる訳にはいかない。で、ふと気が付くと、洗面所を研いたり、リビングにたまったダイレクトメールの山を、夜な夜な片付けたりしている。これはいかん。こんなことでせっかくの休みをつぶすなんて、もったいなさ過ぎる。撮影は撮影、私は私。私の仕事は終わったんだから、ここはゆっくり休もうと思い、夫に旅行を提案しました。が、そういう時に限って夫は忙しく、週末の一泊二日しか休めないというのです。「一泊二日~!?」と、文句をたれながらも、知り合いから那須のお洒落なリゾートホテルを紹介していただき、そこへ出掛けることになりました。ところが、ホテルの名前を聞いた途端、夫は蒼白に。「え。そこ、オレがこの間、撮影で使わせてもらったところじゃ……」夫は映像関係の仕事をしているのですが、撮影で使ったばかりのホテルを、私が予約してしまったのです。さて週末、車で2時間ほどドライブし、道に迷うこともなくスイスイと(それはそうです。仕事で行った場所な訳ですから)ホテルに到着。係の人に案内され、林の中に点在するコテージタイプのお部屋へ。その間中、夫は無言。部屋に着きホテルの人がいなくなった途端「あーよかった」と、ため息。なんと、すぐ隣のコテージで撮影をしたというのです。そこへ連れて行かれたら、思いっきり仕事のことを思い出すところだったと。部屋はとても素敵で「私達にはもったいないね~」などと言いつつも、ようやくリラックスし、散歩へ行くことに。が、ドアを開けたら雨。雨のしょぼふる中、傘を差しながら散歩しているうちに、猛烈なデジャビュに襲われる私。雨、泥、林そして、目の前にホテルの農園。私がシナリオ修業した富良野の土地にそっくりだったのです。富良野では、アルバイトで農作業も行ないました。畑仕事しながら勉強した日々を思い出してしまい、全然リゾート気分になれやしない。さらにその夜は、この年初めての"木枯らし一号"が吹き荒れ、嵐に。ガタガタうるさくて眠れず、仕方なくリビングで深夜のテレビをつけると、やっていたのが松田優作のドキュメンタリー。脚本家と役者の感性の違いみたいなことを延々語っており、ここでも思わずカチリと仕事モードに。翌日、帰る途中「おいしいおそばでも食べていこうよ」と、ホテルの人お薦めのそば屋に寄ると、三時間待ちで入れてもらえず、仕方なく他のそば屋へ。注文を終え、ふと外を見ると、まだ10月なのに雪が降っている!? 雪の中、寒さに震えながら、トボトボと帰路についたのでした。雨、嵐、雪、デジャビュ、松田優作。一体誰が悪いのか。誰かが、私の休みを阻止しようとしているとでもいうのか?!ちなみに映画「涙そうそう」の文庫本が予想以上に売れたので、編集者の方に食事に招待された日は、私が家を出た途端、雷が鳴り電車が遅れました。まさか、私が休んでいる間、不眠不休で撮影していたコトー先生の呪い? まさかね。
*2006年10月号掲載*