2005年9月より2007年8月まで、仙台市のフリーマガジン『いずみっぷる』に掲載

ドラマな日々 第9

 『言い訳』



 先日、打ち合せに2時間も遅刻してしまった。家を出る直前に急に腹痛が襲い、脂汗が出て、トイレに何度も駆け込むという体たらく。めったに腹痛になどならない私に。執筆中は、緊張のせいか風邪すらひかないこの私に! いったい何が起こったのか。ううむ。これは登校拒否児童が学校へ行こうとするとお腹が痛くなる〝あれ〟ではないかと、我が身を疑ってしまった。「すみません……。家を出ようとしたら急にお腹が痛くなって」電話で言い訳する私。言っていて思った。きっとコレ、ウソに聞こえるよなあと。「どうしますか? 中止にしますか?」「ハイ……そうしていただけると。ありがたいのですが」と、言ったとたんになんだか急に楽になり、結局2時間遅れで、某スタジオの会議室へ到着。その日に限って、スタッフが5人も私を待っていた。この人たち本当に私がお腹壊してると思ってるのかなあ……。何とも複雑な思いで、打ち合せは始まった。秋からの連ドラ。ただ今、4話執筆中。登校拒否にかかるくらい苦しんでおります。原稿が遅れた言い訳を、私はほとんどしたことがない。出来ないものは出来ないわけだし、「スミマセン。もう少し考えさせて」と、言うしかないと思っている。結構切羽詰まっていても、言ってしまうのだが、言われた相手は「いい加減にしてくれよ……」と、思っていることでしょうきっと。自称"怠け者"の大先輩の売れっ子脚本家は「ボクは、いままで何人親戚を殺したことかなあ。ハハハ」と、笑ってらっしゃいましたが、ウソとわかっていても、書けないと待たされるより、親戚の不幸で原稿が遅れるほうが、待たされるほうにしてみれば、気が楽かもしれません。ま。それよりなにより、締切を守って早く原稿が上がるに越したことはないのでしょうが。「成田離婚」というドラマを書いていた時のこと。このドラマは、立ち上げ時からトラブル続出で、脚本を書き始めたのが、オンエア2ヵ月前。まさに撮影と追いかけっこの執筆。しかし、火事場のバカ力で、なんとか最終話までこぎつけたのでした。こぎつけたものの、ラストをどう〆るかで、ギリギリながら悩みまくっていたその時、事件は起きた。その日、プロデューサーはどうしても、今夜中に印刷屋に原稿を入れたいと言ってきた。私は「わかりました!」と返事したものの、どうしても納得の行かない箇所があり、「もうちょっと待って。今ちょっと直してるから」と机にむかっていた。そんな時。夫が、蒼白な顔で、私の仕事部屋に入ってきた。そして言った「なあ、オレのパスポートしらない?」 夫は、翌日から仕事で海外に行く予定。なのにパスポートをなくしたというのだ。原稿かパスポートか! 私は一瞬迷ったが、私が原稿数時間遅れるより、夫が出張に行けなくなり会社の人に掛ける迷惑の方が、被害大と咄嗟に判断し、一緒にパスポート探しに奔走した。家中を探し、会社にまで電話をかけ探してもらったが、どこにもない。数時間後、ヘナヘナとリビングに座り込んだ私は、腐っても脚本家。パスポートをなくして出張に行けないなんて信用にかかわる。それより、何か良い言い訳はないか? そんなことまで考えていた時、会社の同僚から電話があり、夫のデスク脇の紙袋の中にパスポートが、落ちていたのが発見された。どっと力が抜けたが、それから自分を鼓舞して、執筆に取りかかった。しかし、どうも考えがうまくまとまらず結局その日は、原稿を渡せずに翌日に繰越になってしまった。その後、プロデューサーと監督にあった時、私は神妙に謝罪した。「この間はスミマセン。夫が海外出張だったのに、パスポートをなくしてしまって」その時の、皆の顔は忘れられない。「コイツ絶対ウソついてる……」皆そんな顔で、私を冷たい目で見たのであった。嗚呼。言い訳せずに、キチンと原稿を上げられるようになりたいものである。この原稿も一日遅れでゴメンネ編集長!

*2006年5月号掲載*











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