2005年9月より2007年8月まで、仙台市のフリーマガジン『いずみっぷる』に掲載

ドラマな日々 第6

脚本家のさが



 夫が、交通事故にあった。といっても、時速10キロくらいの車に、歩いているところを後から、ゴツンとぶつけられただけで、幸い骨を折るわけでもなく、打撲さえほとんどみられない超軽傷。その証拠に、本人が私の携帯に電話をかけてきた。「ちょっと事故があってさ、今から救急車に乗るから」 去年の4月1日の出来事である。最初は、エイプリルフールのいたずらかと思った。次に、夫が事故を起こして、人様に怪我をおわせてしまったのかと少々動揺した。「今どこ? その人は大丈夫なの? 車は?」「いや、事故にあったのはオレ」 夫に車をぶつけてしまった方が、慌てて救急車を呼んだらしい。事故現場は、自宅から歩いて3分くらいの場所。慌てて駆けつけると、パトカーはいるは、警察官いるは、事故を起こした男性は、蒼白な顔で立っているは、思いの外騒然としていた。その中で夫は、元気(?!)に警官に状況を説明している。「大したことなさそうだけど、もう救急車も呼んでしまったし、一応検査されたほうがいいんじゃないですかね。後遺症が出たりするとまずいし」と警察官。「ぜひそうしてください。何かあったら困りますから」と、ぶつけた男性は平身低頭。そうこうしているうちに救急車がやって来た。救命士が駆け降りる「怪我人はどちらですか? あ。自分で歩けそうですね。家族の方、同行されますか?」間髪いれず「ハイ。もちろん!」と、私。 救急車に乗るのは初めての経験である。救急車は乗ってみると案外揺れる。意外である。救急病院に搬送されるまでの間、車の中はこうなってるのかとか。こういう風に病院と連絡とるのかなど救命士の仕事を観察。救急病院に到着し、今度は救急患者の受入れである。医療もののドラマでも、そうでないドラマでも、救急患者の搬送や受入れというシチュエーションは、案外多く出てくる。これまでも何度となくそういうシーンを描いてきたが、すべて想像の範疇を越えられない。実際にどう看護師や医師が動くのか、こちらは見たくて見たくて仕方ない。救急患者の診察室へも同行し、夫思いの妻のフリをして、検査の様子などをつぶさに見て、心の中でなるほどと思う。今度書くときは、こうしようっと。などと、プランまでできあがる。診察の結果、異常なしと分かり、今度は警察署へ。事情聴取!? 刑事もののドラマはほとんど書いたことはないが、警察の事情聴取に立ち合ええるなんて! と心ときめいたのだが、これは入れてもらえなかった。事故の当事者しか入れないらしい。当たり前といえば、当たり前である。事故から、警察の事情聴取が終わるまで、約2時間。ちょっと心配はしたが、脚本家としてはものすごくいい経験だったと内心大満足。もちろん夫にはそんな素振りはみせず、家に帰り「大変だったね今日は。でも無事でよかった」と云うと、夫は冷たい顔でひとこと。「アナタ救急車乗るとき、すっごい嬉しそう顔して、目がキラッと光ったよ」なんのことはない、バレバレであった。夫よ、脚本家の妻をもった不幸をお許しくだい。  
 ちなみに、「Dr.コトー診療所」の原作者山田貴敏さんは、ご自分が過労で倒れ集中治療室に入った時、ここぞチャンスとばかりデジカメを持ちこみ、朦朧とした意識の中、漫画の資料映像を撮ろうとして看護師さんに注意されたそうです。それでもいっぱい撮って帰ってきたと、嬉しそうに語ってくれました。

*2006年2月号掲載*


















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