月刊日本語(現 日本語教育ジャーナル)にて2007年4月号~2010年6月号まで連載

ことばのココロ 第12回

好きなものは、好き!


 誰かのファンになるというのは、どういうことなのだろう? 夢中になる理由を言葉で表すのは難しい。それは、人が恋をしたとき、なぜその相手を好きになったのか説明するのと同じくらい厄介である。
 恋愛ドラマを書きはじめたころ、主人公がなぜその人を好きになったのかに頭を悩ませ、きっかけとなる台詞などをあれこれ考えたものだが、ある日気づいた。
好きになるのに理由はない!

 昨年の秋だったか。ある朝、わが師匠、倉本聰先生から電話が入った。私は倉本先生の主宰する富良野塾で二期生として脚本を学んだ。塾を卒業し二〇年以上たつが、いまだに師匠は怖い存在である。
 先生は現在も、卒塾しドラマを書いているOBライターのために、定期的に特別講義を開いてくださっている。私は連絡係として、時には(いや、本当は年中)師匠の厳しいお言葉をOB諸氏へ伝達しているのである。
 その電話も講義のことかと、緊張が走る。ところが師匠、至極不思議そうな声で「今、テレビ見てたら河村隆一ってのが出てたンだけどさ。ファンなんだって? 追っかけまでしてたってホント?」とおっしゃる。
 私が師匠の言葉に不意をつかれ、「イヤアノ、それはですね、河村隆一というより彼のいたバンドの」とモゴモゴ説明を始めると、「君も忙しいのに変わってるなあ」と、それだけ言って電話を切ってしまった。師匠は、よほど私が河村隆一ファンだということが不思議だったのだろう。

 というわけで、前置きが長くなってしまったが、何を隠そう、私はLUNA SEAのファンである。白状すると、彼らを追いかけ、香港のコンサートに行ったこともある。一〇万人のファンを集めた有明の野外ライブで熱狂した記憶もある。
 きっかけは一〇年前、『ふたり』というドラマを書いた時、そのドラマに河村君が出演。正直、それまで全く彼のことは知らなかったのだが(なんという失礼!)、人気ビジュアル系バンドLUNA SEAのボーカルと知り、番組終了後、軽い気持ちで代々木体育館のライブへ行き……、はまった。
 求めていた何かが、そこにはあった。当時、私は三〇代後半。しかし、年なんか関係ない。その時、一緒に行った離婚直後の友人も、はまった。LUNA SEAを聴いた途端、落ち込んでいた彼女の心の中で、何かがはじけたらしい。その日から、我々二人のLUNA SEA行脚が始まる。二人で喜々としてライブに通い、酔いしれ、解散の日には泣いた。

 たぶんこの文章を読み、師匠のように呆れている方も多いと察する。しかし、その師匠も歴代の愛犬に、「山口」「西田」と名付けている。山口百恵と西田ひかるのファンだからである。〝好きなものは好き! 誰に笑われようとかまわない!〟と教えてくれたのは、実はわが師であった。
 さて、そのLUNA SEA、昨年末、七年ぶりに一夜だけの復活コンサートを行った。その模様は、次回。

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