2005年9月より2007年8月まで、仙台市のフリーマガジン『いずみっぷる』に掲載

ドラマな日々 第13回

『完成披露試写会にて。熟睡と号泣!?』  





 今秋、私が脚本を手がけた映画「涙そうそう」が、無事公開となりました。脚本家の仕事を始めて十数年になりますが、これまで書いてきたのはテレビドラマばかりで、映画は初体験。劇場の大スクリーンで、自分の作品が上映される。それを(お金を払ってまで!)見に来てくれる観客の方がいる。そのことを考えただけで、心臓がドキドキする自分は、思っていたより小心者なのだと、四十過ぎて再認識いたしました。
 映画には完成披露試写会があり、公開前にマスコミや関係者と一般の方に出来上がった映画をお披露目します。まあ、あれほど緊張するものもございませんナ。脚本家は、言ってみれば、試験の発表を見に行く受験生のようなもの。映画会社のお偉いさんや、マスコミの厳しい視線にさらされ、自分の作品を見る緊張感たるや、想像を絶するものがありました。劇場に漂う空気や反応に、一喜一憂し冷汗タラタラで、映画が終わることにはドッと疲れておりました。果たして反応はどうだったのか。全く客観的にはなれず、正直よく判らなかったのですが、斜め前の席の若い男性が、映画の中盤から鼻をすすりはじめ、泣いているのかな? イヤでももしかして風邪? と、疑心暗鬼になりつつ、映画が終わり劇場が明るくなってすかさず確認すると、ウエッウエッと人目もはばからず嗚咽。「ダメだオレ。もう立ちあがれね~」と、泣いてくれていたのを目の当たりにした時には、「どうもありがとう!!」と、その人に駆け寄り握手を求めたくなりました。(もちろん実行には移しませんでしたが。)まあでも、こんなに泣いてくれる人が、一人でもいてくださるんだからヨシとしよう。と、心の中で感謝し劇場を後にしたのでした。その後、公開時もソワソワ落ち着かず、初日には劇場へ偵察に行ってしまいました。席が空いていると思っては心配になり、予告上映中に人が入って座るとホッとし、我ながら馬鹿みたいでした。心の中で感謝し劇場を後にしたのでした。
 私の友人には、映画、演劇関係者が多いのですが、まあ皆よくこの緊張感に耐えられるなあと、改めて尊敬。特に芝居などは、毎回反応がダイレクトに伝わってくるわけで、その観客の前で生身の体を曝け出す役者って、一体どういう精神構造なのか。私には絶対に真似できないことだなあと、つくづく思った次第です。 現在放送中の「Dr.コトー診療所 2006」も、テレビドラマにもかかわらず、第一話の完成披露試写会を、お台場の映画館で行ないました。こちらは、フジテレビクラブのドラマファンの皆さんが主な観客なので、和やかなムードの中での上映。私の左隣は、原作漫画家の山田貴敏氏。右隣は小学館の編集者。山田先生は、数日前から上映を楽しみにしてくださり「吉田さん。もちろん行きますよね。大きい画面で見られるのボクも楽しみだな~。見終わったあと、感想語り合いましょうね!」と、しつこいくらい電話をくれたのにもかかわらず……。上映三〇分後にふと気付くと、左隣からスースーと気持ち良さそうな寝息が。数分後には、私の肩にもたれかかってくる山田先生の頭が。後の席には、フジテレビの局長や部長たちがズラリと並んでいることに、途中でハタと気付いた私は、映画とは違う意味で冷汗のかき通しでした。山田先生、この日のために連載中の原稿を仕上げようと、丸二日間寝ていなかったとのこと。感想など語り合える訳もなく、シュンと落ち込んでお帰りになりました。右隣では、編集者の方が終始鼻をすする音。こちらは風邪かと思っていたら、号泣?!第一話はそれほど泣くような物語でもないのにと、不思議に思い後から聞いたら、お父さまが重い病気で入院中とのこと。物語と重ね合わせてしまったのだそうです。劇場は色んな事情をそれぞれが抱えて集まる場所なのだなあと、改めて。


*2006年9月号掲載*



















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